2017年3月23日木曜日

エタブルオブメニーオーダーズ 2017AW「DECOLLECTION」

「エタブルオブメニーオーダーズ(Eatable of Many Orders)」の2017秋冬の展示会はチャレンジ精神にあふれていて、刺激的だった。



ブランド設立10周年、20回目のコレクションで彼らがやったことというのは、整理と脱構築。これまで取り組んできたことを振り返り、残していくべきものは残して発展させるし、「これが当たり前」と思い込んでいたようなことには一度ちゃんと向き合って「本当にそれでいいのか」と問いかけている。

一見、相反する作業、すなわち新陳代謝を1つのシーズンで一気にやってしまおうということに、アニバーサリーイヤーに対する特別な意気込みを感じるし、「10年経って安寧ではなく、どんどんもっと前に(荒野に)進んでいかなければならない」という開拓者としての何度目かの覚悟を見せつけられたようにも思う。だから刺激的。それでいて、そんな大仕事をさらりふわりとやってのけてしまうのだから、本当にとんでもないデザイナーだ。

今シーズンから舞台は恵比寿から代々木上原へ。しかも美容院「空間」。



この10年、エタブルの仕事はいくつかの大きな流れを作り出してきた、ように思う。私が彼らの服を見はじめたのは、2013−14秋冬の「Bakery」シリーズ以降だ。この時初心に立ち戻ろうとしていたブランドは改めて「eatable(食べる、食べられる)」を基本テーマに、その後数年にわたって素材とそれにまつわる産業、文化などを取り扱ってきた。

ファッションに疎い私がなぜ、このブランドを見続けるようになったのか。たぶん、服を作る人、というより、ピュアな研究者みたいな姿勢に興味を惹かれるからだと思う。まず、人間の生活や生きる知恵に対する好奇心が先にあって、1シーズンかけて探求したアウトプットの一部がたまたま服というかたちを取っているにすぎないからだと思う。

実際、展示会に赴く楽しみというのがサンプルの服だけでなく、その傍に大切に置かれているモノたちなのだ。例えば、デザイナーのインスピレーション源となったイメージを集めた手づくりのスクラップブックや、派生的に生まれたインスタレーションやアートピース。「今のシーズンは、何を考えたのですか?」。デザイナーにそう尋ねるのが楽しみで、私は会場に足を運んでいるところがある。

そして最新の流れが今回の2017秋冬「DECOLLECTION」である。これまでの物語や素材の「研究」を経て、デザイナーはとうとう「哲学」の領域に足を踏み入れてしまった様子。服とは何か、それを支える仕組みやコレクションとは何か、適正な時間の流れ方とは何か、そしてデザイナーがそこにどう介入できるのか――。今回の会場となった代々木上原の風変わりな美容院「空間」には、そんな作り手のデコンストラクションな「問い」にあふれている。




アートピースはさながら、デュシャンの通称「大ガラス」を思わせる大作。「服を脱構築的に眺めるための装置」だという。さもありなん。一枚の大きなガラス板に縦に入った亀裂。そこに写り込んでいるのは、シーズンの象徴的なジャケットだ。その像は亀裂によって裁断されているし、よく見ると、ジャケットの一部が裏返しに縫製されている。でも、そもそも表と裏の違いってなんだっけ。デザイナーの無言の問いに乗せられて、思わず私も頭をひねる。



服もだいぶ変わった。これまでの建築的なパターンや、気持ちのいい素材、あたたかみのあるエタブルらしい雰囲気は継承されつつも、なんだか別の次元のものになっている。よりモードに、より概念的、作品的になったというか、研ぎ澄まされてかっこいい感じ。アパレルラインのロゴも変わった。本気で生まれ変わろうとしているんだなあ。この10年を総括し、11年目へと向かうエタブル渾身の一撃、私はとても興味深く受け止めた。





※ちなみに熱海の直営店「EOMO store」では、3月29日(水)―4月1日(土)14:00ー19:00に受注会が行われるとのこと。ぜひ。