2017年4月4日火曜日

リー・ウェン最新作『Birds(鳥たち)』



シンガポール人アーティスト、リー・ウェン(1957−)。全身を黄色に塗り、「イエローマン」(1992−2004)というペルソナで人種差別や言論・表現の自由に挑んだアーティスト。



時は経て、2007年にパーキンソン病を患ってからは、色鉛筆を握りしめて、羽ばたく青い鳥を描く。それはリハビリか、プラクティスなのか。経を読むように、繰り返し飛翔を描き続ける。飛びあがったかと思うと空中で旋回しながら急降下し、大空と戯れ、暴れ、自由を謳歌する鳥。連作で眺めると、それはまるでキネティック・アートかパフォーマンスのよう。



リー・ウェンが色鉛筆を選んだのは、力を入れなければならない画材だから。水彩絵の具のようにはいかない。自分が求める濃度にするには動かぬ身体に鞭打ち、手に力を込めなければならない。その筆圧はコットン紙のざらついたテクスチャーをつるつるに伸ばしてしまうほど。特に鳥のシルエットは、鉛筆の先が丸く平らになるまで入念に力をかけるから、鮮やかな青のストロークは痛々しいほどに紙の上に刻まれる。



発病の時、リー・ウェンは自由を失っていく己の身体を呪ったことだろう。自由を求めて躍動した「イエローマン」の輝かしい時代を思い出しては、今の境遇を憎んだことだろう。しかしリー・ウェンは生き続けなければならない。アーティストとして表現し続けなければならない。彼の青い鳥は、自由に向ける羨望と、なんとしてもそれを再び獲得したい、あるいはそれ以上の自由を、という不屈の精神の表われなのだ。


2017年04月01日(土)~2017年04月23日(日)

会場:アーツ千代田3331 1F 3331 Gallery

会期中は作家の滞在制作も