2016年4月15日金曜日

ナイル・ケティング「マグニチュード」


(以下、森美術館で開催中の「六本木クロッシング」より、参加アーティストのナイル・ケティング氏がインスタレーション「マグニチュード」について語った話をまとめています。4月16日(土)からは山本現代で個展もスタートします)



六本木クロッシング2016 僕の身体、あなたの声
2016年3月26日(土)~7月10日(日)
森美術館

(東京都現代美術館で)展示のキュレーションをやった時、「無機物と有機物の関係性から新しい身体性を発見したい」というような考えで構成したんです。そこから、その無機物と有機物が立つ舞台としてのエコロジーがいったいどんなものなのか気になって今回の作品をつくっている。現在のポストアトカリプティックな状況に対して、自分の立ち位置をどう見つけ出してロケートするかすごく考えました。
そのなかでキーワードとして「エネルギー」という言葉が出てきました。メディアでも「エネルギー」ってよく使われているけれど、それが実際どんなマテリアルで、どんなもので、どんな風に私たちの生活に影響しているか、自分でも分からなかった。それでエネルギーについて最初に考えようと思いました。

「マグニチュード」という言葉はもともと、星の等級、光の強さを表す言葉だったそうです。アポカリプティックな状況という示唆的なものと、エネルギーが生み出す光といったものがオーバーラップしてきて、光について読んだりしている時にトーマス・エジソンの名前が自然に出てきた。これは私が見つけた資料で、エジソンが最初に電球を発明した時に、魔法使いのようなビジュアルで新聞に扱われたものです。

 
私たちがエネルギーとか、科学技術とか、新しいものに触れた時にどういったトランスレートをするか、ということが今回の一つの視点になっています。見えなかったもの、近づけなかったようなものがマテリアル化された時、すぐには身体化できないから何かに置き換えないといけない。そこで人はファンタジーとかナラティブを用いると思うんです。そこで科学と神秘の関係をベースに、私が集めてきたリサーチをシーケンス化して一連の映像として起こしています。

例えば映像に出てくるこの女の子は肩に鳥を乗せていますが、これはギリシャ神話のプロメテウス(ゼウスに背き、人類に火を与えたとされる)のメタファーです。このシーンは私がつくりだしたトランスレートで、ユートピアの世界、ポストプロメテウスの時代を描いています。プロメテウスは(人類に火を与えた罰として)鳥に肝臓を食べられ続けているわけですが、そのうち鳥たちが「こんなのバカバカしくない?」と思って女の子のペットになる(笑)。「プロメテウスの火」って科学者が「制御出来ない力、エネルギー」のことを言うようだけど、鳥を手下に置いて支配しているのは、科学技術が完全にコントロールされている状態。そういった意味で彼女を映像の中心においています。



それから「EDISON」の文字が出てきます。これは、エジソンがパリ万博で電球を発表した時に自分の名前を電球で表現したことに基づいています。ほかの人の名前も出てきますが、それらは電球を発明したのに特許をとらなかった科学者たちの名前です。「もしかしたら存在したかもしれない歴史」をつくって、エジソンを曖昧な存在に置き換えています。



映像ではエジソンはホームレスとして登場して、最後はエフェクトを使って自分の手から光を出します。人って、人工的なファンタジーを見る時にまるで自分が体感しているかのように捉えて、リアルの風景に置き換えますよね。私が特に気をつけたのは、私たちが生きている時代において、ファンタジーというものが、どんな風に商品化されているか、ということでした。ディズニーランドをリサーチして、音響の作り方からアイデアを取ってきたりしています。展示をよく見るとすごく政治的なオブジェクトが並んでいたりするんだけど、実は印象とか感情みたいな、抽象的な要素で構成しているんです。なぜエジソンがホームレスの姿をしているかについては、こういうキャラクターがトリックスターであってほしいという思いも込めて(笑)。



まずこれらの映像があって、そこからなだれおちてくるモノたち、映像で流れきってしまうものをネイルしてあげる、とめる。例えば、科学者たちが発明しながら実現できなかった電球のモデルなどをインスタレーションとして展開しています。「invent(発明)」という英語はもともと「ものや話をでっち上げる」という意味がある。だから現実的だと思っているものも、もしかしたら誰かにつくられた現実かもしれない。それと同じように科学も魔法使いの曖昧さと似ているんじゃないか。それをインスタレーションとしてキャラクター化、実像化してみた、というのがこの作品の主旨です。



今回はシーメンスに協力してもらい、シーメンスのなかにある高電圧試験研究所を取材したんです。彼らは巨大な電圧システムを持っていて、雷をつくって自分たちの製品をテストしている。神話では、雷って神様がつくるものじゃないですか。それが今や人間の手、企業の手のうちにまわっている。神話はもはやテクノロジーやビジネスのなかにシフトしてきている。そういったところでのナラティブが、新しい世界の多様性のあり方につながっていくのではないかなと。

これは「サブストーム」という新作で、リキッドクリスタル、つまり液晶です。ディスプレイのなかに入っているゲルがこういうもので、私が練ってつくって、アクリル板のなかに注入したんだけど、ずっとこの状態の色が保たれる。実際は透明のゲルなんだけど、光が当たるとスペクトルによっていろんな色が見えるんです。これは「マグニチュード」という光の単位から連想したもの。(宗教絵画で)神様は光として描かれていた。それが絵画ではなくてディスプレイだったら、いたるところに神様がいるということになりますよね(笑)。ディスプレイというものがある意味私たち人間をつないでいるんじゃないかと、液晶のマテリアリティみたいなところでちょっと遊んでいる作品です。アクリルの表面にはエングレーブがしてあって、これは私の遊び心。NASAから取ってきたオーロラの観測データです。オーロラも、太陽から注ぐ電気の風が地球に降り注いでああいった色になっていますよね。



この装置はプラズマなんです。プラズマから音響を発生させています。聞こえてくるリーディングの内容は、私が見つけたアメリカのニューエイジグループの朗読。このグループは宇宙にあるプラズマが私たちの脳に作用していて、それが神様のお告げだと考えているんです。私が彼らのテキストを読んだ時に「これって、かつて近代科学が神話とつながったりしていた、自然のあり方なんじゃないか」と思って。彼らにとってはプラズマが神様であり、そのお告げを聞くための装置をつくったわけです。



この竹は(笑)。エジソンが最初にフィラメントをつくって成功させたのが京都の竹だったらしいんですよ。誰かから扇のお土産をもらって家にあったみたい。それを割いてフィラメントにしたんです、ほかの竹じゃダメ、京都の竹じゃないとダメで。神様とか光をつくる原型のマテリアルが竹という、ひじょうにドメスティックなものだったりするという。そんなエピソードを知るだけでもシネマティック、ドラマティックな状況だと思うんです。 



私がずっとフラストレーションだったのは、例えばアーティストが福島に白い服を着てビデオを持って入っていくという行為が、それが、本当に政治的なのか分からないってことだった。私はそうではなくて、もっと違う、むしろポジティブに変換してしまうくらいの逆方向の流れをつくりたかった。「放射能」という言葉を一切使わなくても、見ている人が自然に体内化していくような、ある意味、一つの舞台作品みたいなつくり方をしたいんです。



16日(土)からは山本現代で個展がはじまります。山本現代の展示は、ここ(六本木クロッシング)の展示のネガ(ポジ)ヴァージョンという位置づけ。私が考えている環境の世界観とか、新しい世界の見方をピックアップしています。例えば、シーメンスで撮影したショットも、こっちは白黒で古い機械が並んでいるように見えるんだけど、向こう(山本現代)はカラー写真で逆にフューチャーな感じにしています。必ずしも六本木クロッシングとはセットではないけど呼応しています。

山本現代ナイル・ケティング 展「ホイッスラー」
2016年4月16日(土)~5月14日(土)
開廊時間:11:00 ~19:00(日曜・月曜・祝日休廊)
オープニングレセプション:2016年4月16日(土) 18:00 ~ 20:00
パフォーマンス「First, Class」:2016年4月16日(土) 19:00 ~