2016年4月26日火曜日

旅するルイ・ヴィトン展の見どころ


「Volez, Voguez, Voyagez - Louis Vuitton」(空へ、海へ、彼方へ──旅するルイ・ヴィトン)展
2016年4月23日(土)~2016年6月19日(日)
特設会場:東京都千代田区麹町5丁目
入場無料、オンラインで時間予約が可能

「本当に実用的なトランクは、軽量で耐久性がなければならない。そして中の物を衝撃から守り、何よりも水分の侵入を防がなくてはならない。そのため、私はよく乾いた木材を使用し、外装に亜鉛や銅、あるいは油脂コーティングを施したキャンバスを用いる。さらに中に水が染みこまないようにゴム素材で補強するのだ。ビスで固定された錠前に、補強用の横木を立体的に取り付けることによって、私のトランクが持つエレガントな魅力が際立つ」。(ルイ・ヴィトン 荷造り及び旅行トランクの特許出願証明書(1867.1.18)より抜粋)
毛布のための木製ケース 1924年 木、金具 ※写真はすべてルイ・ヴィトン コレクション
グリ・トリアノン キャンバスの丸みを帯びたトランク 1860年頃 コーティング・キャンバス、木、金属、紙
専用のバックル レバーロック、5つのタンブラーロック、アールヌーボーロックとルイ・ヴィトン スプリング バックル
19世紀後期-20世紀初期 真鍮、ニッケル、金属

要は、「荷造り用木箱製造兼荷造り職人」がルーツである、と。

船、汽車、自動車、飛行機。輸送手段の進化と共に、さかんに旅をするようになった富裕層の安心安全かつ“エレガントな”(←大事)ムーバブル化を着実に実現してきた。これが「旅のスペシャリスト」を自負する所以である、と。

明快なメッセージが貫かれた本展。いちはやく特許を出願し(←これも大事)、ユーザビリティを考えた鍵の一元管理、コピー防止のために生まれた手描きのモノグラムなど、ディテールの背景にある根拠、「いったい何(誰)のために何をつくってきたのか」というものづくりの歴史がひじょうによく整理されている。派手なインスタレーションはないが、150年経たモノの威力に勝るものはない。ルイ・ヴィトンはファッションじゃない、歴史なんだ、と鑑賞者は思うことだろう。

圧倒されるのは、伝えることに対する本気度のすごさだ。赤坂のニューオータニの裏に大規模な特設ミュージアムを建てて、重文級のコレクションを惜しげもなく見せる。しかも無料で、誰にでも。会場には多数のスタッフを配し、作品について説明してくれる。街中に広告を打って、ラッピングのシャトルバスを走らせる。それが世界を巡回する。

ストライプ・キャンバスの婦人用ロー・トランク 1886年 コーティング・キャンバス、木、革、真鍮、テキスタイル、金属、塗料
天然鞣し革のトランク「イデアル」1903年 天然鞣し革、木、真鍮、金属、テキスタイル
コットン・キャンバスの「スティーマー・バッグ」1901年頃 コットン・キャンバス、革、真鍮

目に見えない情報の時代。だからこそ一つひとつの土地を訪れ、直接モノと対面して感じてもらうことが大事なんです。それは誰もがわかっている。わかってはいるけれど、実際にやろうとすれば大変な労力と覚悟が必要なのであって。15年度2ケタ増収とはいえ、本当にこんなプロジェクトを実現してしまうなんて、ルイ・ヴィトンはいったいどれだけ本気なんだ、と鑑賞者は思うことだろう。

「自分たちのことをわかってもらいたい」という強い思い。もっと言えば今後数十年を見据えて「今だからこそ、わかってもらわなければならない」という危機感。

日本はここまで本気で何かを伝えられているだろうか。「いいモノをつくっているんだから、わかる人にはわかる」と高を括ってはいないだろうか。日本人同士ならば、前提となる教養や感性があって沈黙のコミュニケーションも成り立つだろうけれど、本気で世界に打って出るとなればやはり伝える力を強化していかなければ。しかも第三者に頼ることなく、自分の力と情熱で。

伝えたい、という姿勢。それが本展の最大の見どころではないだろうか。

(手前)コーティング・キャンバスのスーツケース、クロワジエール・ジョーヌ(黄色い巡洋艦隊)のためのカスタムメイド 1930年 コーティング・キャンバス、木、革、金属、テキスタイル (中央)クロワジエール・ジョーヌ(黄色い巡洋艦隊)で使用されたジュラルミンのベッド・トランク 1910年 ジュラルミン、革、鉄、テキスタイル
ガストン-ルイ・ヴィトンの書棚トランク、モノグラム・キャンバス ガストン-ルイ・ヴィトン プライベート コレクションの蔵書とともに 1936年 コーティング・キャンバス、木、銅、ロジン、革、テキスタイル