8月、多くの登山客や観光客でにぎわう高尾山のふもとに、TAKAO 599 MUSEUM(タカオゴーキューキューミュージアム)がオープンした。
八王子市が高尾山の魅力を伝える場として開設したもので、館内では高尾山に生息する動植物の標本や生態の展示を行うほか、カフェや子供が遊ぶスペースなども備え、登山に限らずさまざまな目的で訪れる人の憩いの場としても機能している。
いわゆる観光案内所とは一味ちがう情報発信ともてなし。しかも地元の土産物店や飲食店とバッティングせずに集客する方法として無料のミュージアムという形態にたどりついた。
近年、博物館でも動植物園でもなく、「ミュージアム」と名乗る施設が独自の進化を遂げている。11月に大阪・万博公園で開業予定の「ニフレル」も海遊館が提案する新しい水族館の在り方として「ミュージアム」を標榜している。その明確な定義はないけれど(※)、建築はもとより生態展示や情報伝達の方法などコンテンツまでトータルに計画(キュレーション)されたプロジェクトを指しているようだ。コンセプト策定の初期段階から、建築家やアーティスト、デザイナーが入って運営まで含めた施設のプロデュースに携わる。かつての「ハコモノ」時代はいよいよ終焉を迎えたのだろうか。
ミュージアムという新しい場所で活躍を期待されるのがアーティストやデザイナーだ。これまではできたハコに対してコンテンツを提供する側だったが、ミュージアム時代には「そもそも何を体験してもらうか」というところからアイデアを求められるようになる。TAKAO 599 MUSEUMでも、アートディレクターの大黒大悟氏(日本デザインセンター)が入り建築のプランから展示・運営、そして本業であるコミュニケーションまで全体を見ている。
TAKAO 599 MUSEUMを貫く柱は「SHARE」というコンセプトだ。高尾山は都心から最も近い登山スポットであるだけでなく、外国人の観光スポットとしてもまた近隣の家族連れが気軽に遊びにこられる公園的スポットでもあり、つまりは実に多様な人々が集う特別な山である。例えば、私は山に登らないが、ダンナは登る。でもTAKAO 599 MUSEUMに来れば、山に登らない私でも高尾山には3000種類もの植物があることを知るし、山に登るダンナは何月にどのあたりで何の花が見られるかという情報を得られる。目的が違っても、みんなが凝縮された「高尾山」を共有できるのだ。
もちろん、生の植物をアクリルに閉じ込めた標本展示や、実際に山にいる動物たちの生態をアニメーションで描いたプロジェクションマッピングなど、ミュージアムを名乗るにふさわしい「作品」として、それだけを見に行く目的でも十分だ。子供たちも、高尾山系の地形を模した遊具や、外の水遊び場などで楽しく過ごすことができる。情報発信だけでなく、憩いや遊びの広場として機能している点もポイントだろう。
(※)ちなみに「博物館」の定義は、
「博物館」とは、
・歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、
・その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、
・あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関(公民館及び図書館を除く。)のうち、
・地方公共団体、民法(明治29年法律第89号)第34条の法人、宗教法人又は政令で定めるその他の法人(独立行政法人を除く。)が設置するもので登録を受けたものをいう。
(現行の博物館法第2条の規定)
なんかよく分からないけど、だいぶ上から目線っぽい。