開館20周年記念展杉本博司 趣味と芸術-味占郷/今昔三部作
千葉市美術館
会期 2015年10月28日(水)~12月23日(水・祝)
「人類史の中で精神は時代に宿り、そして芸術は時代精神と同衾した。しかし今、時代は高度資本主義の中で、宿るべき精神の不在、または精神の不在そのものの商品化へと流されつつある。芸術が腐臭を放し始めた昨今、私は趣味の世界へと時代を遡行していくことにした。古の文明が残してくれた遺物を愛しみ、撫でさすり、眺めていると、失ったものの大切さと共に、今の時代が見えてくる。私は我が道を楽しみながら生きて来た。これを道楽と言う。道楽者のアナクロニズム、私はそれ以外に時代を映す術を知らない。杉本博司」(展覧会パネルより)
自らのしていることは道楽である、と言い切る潔さ。重い時代であればこそ、軽みのなかに美を包みこみ、サラリと差し出して、後には晴れやかな微笑みだけが残る。
それぞれに客があり、もてなしの時間と完成された空間があったわけだが、こうして再構成された意外なものたちの組み合わせを眺めているだけでも十分おもしろい。床の間や茶席というと和のイメージが強いが、軸にエジプト「死者の書」をかけ、その下に青銅製の猫の棺を置いたものもあって、この時はどんな客が訪れたのか想像してみるのも楽しい。掛軸の先に使われる軸棒の材料や装飾まで徹底的に心を砕き、それでいて最後に一輪の洒落を忘れず、本気の道楽は一周回ってもはや芸術である。
芸術家とか学者とかいうものは、この点において我儘なものであるが、その我儘なために彼らの道において成功する。他の言葉でいうと、彼らにとっては道楽すなわち本職なのである。彼らは自分の好きな時、自分の好きなものでなければ、書きもしなければ拵えもしない。至って横着な道楽者であるが既に性質上道楽本位の職業をしているのだからやむを得ないのです。(夏目漱石「道楽と職業」明治44年8月明石において講演)