2016年11月4日金曜日

昨日、ka na taのえんげき「きゅう」を見て



昨日、ka na taのえんげき「きゅう」を見て


ああいうものを見せられて
微動だにせず
まるで何も見なかったかのように
無言無視の闇に思考をほふることはかえって卑劣と考え
こうして昨夜のことをたぐり寄せている

確かに思うのは
芸術の本質のひとつは己自身をさらけ出す、ということである

今の世にあたりを見回せば、そこらじゅうそれっぽいものばかり
それっぽい服
それっぽい空間
それっぽい文化
それっぽい人たち
ああもう辟易だ

つくるほうも、求めるほうも
わかっちゃいるのにやめられない、暗黙のそれっぽさ

だから
ああいうものを見せられて
腹の傷から臓腑を引っ張り出してのたうち回るかなたの、叫ぶかなたの
さらけ出している、としか言いようのない
それっぽくない態度の壮絶さに
まず腰が引けて
目が白くなって
背中が強張って
そしてだんだん腹が立ってきた

「お前は演劇なんかやらずに服をつくっていればいいんだよ」

人にはそれぞれ期待される役割というものがある
特に長いことやっていれば
周りは勝手にそういう枠組みを構えてその人をとらえて閉じ込めたがる
そのほうがお互い安心なのでね

デザイナーはデザイナー、役者は役者、モデルはモデル
与えられた役割をこなしていりゃあいいんだよ

だけど人間は複雑なものだから
刻々と変わっていくものだから
もちろん欲だってあるから
もう少しだけ幸せになりたいと願うから
枠組みをぶっ壊したいし
無に帰したいと思う
そこからもう一回はじめたいんだ

かなたは「えんげき」でそれを実行しようとした
いつの間にか着込んでいた服を一生懸命になってひきはがし
もっとも信頼する大切な人たちに次々とつかみかかり、試し、傷つけようとする
そうしながら、もう一度生まれたい、生まれたいともがいていた
「きゅう」とはかなた自身のことだ
きゅうの次はゼロ
ゼロになりたい
無になりたい
そこからもう一回はじめたいんだ

一方、私は目の前で起きていることに憎しみを覚えた
そんなことは到底受け容れられない
世の中はそんなに甘くない
今すぐ仕事場に戻って、与えられた役割の続きをまっとうにまっとうしなさい
人生は一度しかないのよ
やりたいことなんかやる時間はありません

私のなかで明るみになったどす黒い嫌悪感が私の身体を侵食しはじめた
ドロドロとした毒液が目だの口だのそこかしこに染み渡ってきていやな感じの鳥肌に覆われる
後味の悪い夢を見た後のようだった
一刻もはやく、逃げるようにして家に帰りつき
理由なき不快を数杯の水割りで流し去ろうとした
ああいうものを見せられて
突きつけられて
私はもう知らない


ところが翌朝目覚めると
いつもより澄みきった透明な陽の光が私の身体を包んでいた
傍らの猫と目が合った
おはよ
だいじょうぶもう起きるから
不思議と昨夜とは違う感覚が生まれていた
悪いものをすっかり出し切ったような
完全敗北を喫してむしろ心地がいいというような

ものすごい戦いの後の野原で骨だけになって横たわっているみたい

そしてこうして文字を連ねながら
ようやく気づきかけている

かなたの「えんげき」につられてさらけ出してしまったのは
ぶっ壊されてしまったのは
それっぽいこの私自身ではなかったかと







追記
かなたは「なにをつくっても暗くなるんだ」と言ったが
結果的にこれは希望の「えんげき」です
プールでのショーのときは、ファッションが服を脱ぎました
そして今回の「えんげき」では、見る人自身がきっと


受けて立った一人ひとりのキャストもすばらしかった