傍らにはそれぞれ子のような龍を添わせていたが、軌跡はあっという間に風に流されて消えた。
将軍塚青龍殿。大舞台から京都の景色を一望する。
昨年4月から公開されているガラスの茶室「光庵」(デザイン:吉岡徳仁氏)は、山間の青く霞む風景に半ば溶け込みながらも凛然とした存在感。環境からの呼びかけに反応したような建築。主張と受容のあいだにある表現の機微は研ぎ澄まされた冬の空気のように、思わず身が引き締まる。
青龍殿のなかに入り、青黒の御不動様を仰ぐ。
両脇に侍る二名の童子が宇宙の中心を見上げていた。
子どもは純粋無垢な心でものごとの真偽を見抜く。
煩悩を焼き尽くす忿怒の相の下に隠れる優しい導きの行方を知っている。
今年は節義を尽くせとのこと。
子どもの姿勢を見習いたい。
子どもは先を見すぎないから焦らない。ただ目の前のことに夢中になるだけだ。
集中が途切れて目の前のことから視線が外れると、どこからともなく湧き出でてくる厄介な妄念に取り巻かれてしまう。その暇や隙を与えないように、今この瞬間にやるべきことに心血を注ぎたいと思う。そうしていれば煩しき悩みなど御不動様が焼き尽くしてくださるだろう。もう先を見ようとはするまい。壮大な夢や希望といったものは若い頃の持ち物である。この歳にもなると、今この瞬間が持てるすべてだ。それ以上など望むべくもない。